医師が現場に出向く救急医療(ドクターカーとドクターヘリ)

医師が医療現場に出向くために同乗する救急車のことを「ドクターカー」といい、同じ目的で同乗するヘリコプターが「ドクターヘリ」です。救急搬送される患者さんの多くは救急隊員による対応で間に合いますが、心肺停止や重篤な患者さんは医師が現場で対応したほうが望ましい事例は多く存在しています。

救急対応する医師

救急救命士とともに医師が現場で対応することで、時間をロスすることなく高度な医療行為を迅速に開始できるのが、ドクターカーとドクターヘリを導入する最大のメリットです。

ヨーロッパでは、フランスの救命医療サービス組織のSAMUに代表されるドクターカーとドクターヘリのシステムが導入されています。アメリカでは、高度な教育訓練を受けた救急隊員「パラメディック」が、医師に代わって救急車に同乗しています(州によって異なります)。

日本では救急救命士制度の導入時に、フランスのSAMUのシステムとアメリカのパラメディックのシステムのどちらをモデルにするか議論となりましたが、最終的にはパラメディックに近い救急救命士の制度が採用されました。

では日本では医師が同乗して救急現場に駆け付けるドクターカーとドクターヘリは存在しないのでしょうか? そんなことはありません。ドクターカーもドクターヘリも既に一部の自治体では運用されており、重篤な患者さんの救命率の向上に効果をあげているのです。

ドクターカーの大きなメリットの一つとして、救急救命士が患者さんを前にして医師から直接指導を受けられるため、病院前救護の質が向上するという点が挙げられます。ただし、ドクターカーの導入には公的な経済負担、それに関する市民の理解が不可欠で、ドクターカーの導入が上手くいっている自治体は、市の消防と私立病院が理解のある自治体の長と連携しているところです。

ドクターヘリは救急搬送の重要な手段として欧米諸国、なかでもドイツで成功を収めていますが、日本での導入事例は一部の自治体に過ぎずこれからの課題となっています。日本ではヘリの運航に関する規制が厳しいこと、都市部でも飛行の障害となる建物等が多く、もともとヘリの運航には適していません。

またドクターヘリは運用費用が導入に際しての大きな足かせとなっています。救急車は1回の出勤で5〜7万円の費用がかかるのに対し、ヘリは55万円かかるとされています(数字は厚生労働省補助事業が年300回の出勤を仮定して試算)。

しかし、重症の患者さんを一刻も早く収容することで治療効果もあがるため、対効果費用は数字ほど高くないという研究もあります。沖縄などの離島やへき地など十分な医療システムが整備されていない地域では、ドクターヘリによる搬送は大きな効果を発揮すると思われます。沖縄などではドクターヘリの導入・運用費用を賄うための募金運動が行われ、ニュースなどでも報道されました。また地震などによる災害医療の現場でもドクターヘリが活躍しています。

脳神経外科・脳卒中センターの看護師の役割

神経系の働きの中枢を担っている脳と神経の疾患を専門として外科的治療を行うのが脳神経外科です。この診療科で具体的に治療する疾患としては、高齢社会の到来で今後も患者数が増えることが必然とされる脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、交通事故等による頭部外傷、脳腫瘍などが挙げられます。

中枢神経のイラスト

脳卒中などは、重症例の場合は意識低下も見られるため、急性期の対処が生死を左右します。したがって、医師や看護師には冷静かつ迅速に検査、診断、治療を行うことが求められます。術後に意識が回復しても片麻痺、言語障害、運動障害が残ることも少なくないため、リハビリテーション科との連携で患者さんの治療にあたることも大切です。

脳卒中をはじめとする脳血管障害や神経疾患は、初期症状に乏しいことが多いため、危険サインを的確に読み取る能力が求められます。脳神経外科は、患者さん、そのご家族、医師、リハビリスタッフとの密なコミュニケーション能力が問われる診療科ですが、その分やりがいも大きいと言えます。

近年は高齢者だけでなく、働き盛りの40代や50代にも脳梗塞、脳出血、くも膜下出血を発症することが少なくなく、後遺症で社会復帰が困難になるケースも多く、社会的にも大きな損失となっています。そこで最新の高度医療で脳血管障害に対処するために、脳神経外科、神経内科などの専門医、看護師、理学療法士らが連携する脳卒中センターを新設する医療機関が増えています。

脳卒中は発症直後の超急性期にいかに早く治療を開始できるかが、患者さんの後遺症の程度を大きく左右します。また脳卒中の患者さんには、他の疾患を併発しているケースも多いため、迅速なな治療には各診療科の専門医や看護師との連携は必須です。脳卒中センターの看護師は、患者さんの生命を繋ぎとめて一刻も早い社会復帰を目指すため、最適のケアを提供することが求められます。

低侵襲の治療が普及した手術室のお仕事

大きな怪我や病気の治療に手術は欠かせませんが、軽度の手術であっても麻酔や感染症のリスクを完全にゼロにすることはできませんので、必ずしも治療の第一選択になるわけではありません。

器械出し看護師のクーパー

すなわち薬物療法の効果期待できない、薬の副作用が強いので継続投与が難しい、手術したほうが早く退院できるなどの場合にはじめて手術というオプションが採られるのです。

一昔前の手術といえば、人体を大きく切開することから、心身の苦痛、術後の感染症リスクが高まり、メスを入れる範囲が多いことから回復に時間がかかるなどの課題がありましたが、現在は侵襲の少ない手術が増えています。

具体的には先端に小型カメラを取り付けた腹腔鏡や胸腔鏡、カテーテルが利用されます。腹腔鏡を使った手術は、大腸がんや潰瘍性大腸炎などに適用され、腹部に1センチ程度の小さな穴をあけ、そこから腹腔鏡などの手術器具を挿入し、患部の切開、切除を行います。低侵襲の手術は患者さんの心身の負担が少ないのが最大の特徴ですが、術野が狭く、器具の熟練度も高いレベルで問われるため、経験豊富な執刀医が病院にいなくては意味がありません。

現在の勤務している病院には手術室数5室があり、在籍している麻酔科医2名、看護師17名で年間約2,300件ほどの手術を行っています。外科、整形外科、この10年で術式や器機が大きく進歩した心臓血管外科などをはじめ、10の診療科に対応できるように最先端の設備でスタンバイしています。

患者さんの手術を担当する麻酔科医と手術室看護師が、術前の不安を少しでも軽減し、また術中に特別なケアが必要かどうかを確認するため術前訪問を行います。患者さんの希望を伺い、手術中の緊張感を和らげるためヒーリングやクラシック系のBGMを手術室内に放送するなどの工夫を行っています。

薬が承認されるためには治験が必要

私たちが病気や怪我をした際にお世話になる薬には、症状を抑える効能(主作用)だけでなく、毒性を示す副作用も存在しています。したがって、製薬会社は新薬の開発に際して、その安全性を確かめる試験が繰り返し行われます。

生活習慣病の治験薬

試験はいきなり人に対して行うのは危険なため、まず細菌や細胞などを対象として、薬の候補物質(化合物)の効果の有無や毒性などを調べる試験を行い、次のステップとして動物実験を行います。そして動物でもその有効性と安全性が十分に確認された場合、いよいよ人を対象とした臨床試験に進むわけです。そして、厚生労働省の審査を無事に合格したら、晴れて医薬品として市販されることになります。

治験は第1〜3相の3段階に分けられています。同意の得られた少数の健康な人(抗がん剤の場合は患者)を対象に、薬の有効性と安全性を確認するのが第1相試験で、採血(血液一般検査・血液生化学検査)、血圧測定、尿検査等で披験者の健康に影響がないかを調べます。続く第2相試験では、同意を得た少数の患者を対象に行われ、適切な用法・用量はどのくらいなのかを確認します。最後の第3相試験では、数百人から数千人の大規模な患者を対象に、既に市販されている薬などと比較します。

画期的な新薬の開発は患者と製薬会社に大きな利益をもたらしますが、薬の候補物質を探す段階に始まり、3段階の治験を経て、新薬の開発が行われるまで最低10年以上の歳月と莫大な開発予算が必要です。日本製薬工業会のデータによると、過去5年間に国内の製薬企業で合成された化合物およそ53万5000のうち、臨床試験まで進んだのはたった79種類、さらに医薬品の開発までこぎつけたのは27種類(確率にすると0.005%)。